研究内容

 代謝内分泌病理

稲葉、郭、高橋、阿部、齋藤、内田、梅津、小笠原、長内、工藤

 私たちの教室では糖尿病及びその合併症について病理学的解析を中心に研究しております。現在、本邦では糖尿病患者はその疑いを含めると約2000万人となっております。これは日本国民の約6人に一人が糖尿病に関係しているという膨大な数です。このような糖尿病に対して、残念ながらいまだ根治的治療法は確立されておりません。一刻も早い糖尿病の撲滅のためにも、糖尿病の病態を解明し、新規治療法の確立が望まれております。我々はその目的の為、日夜研究を続けております。



1. 膵β細胞脱落機序の解明、新規治療法の確立について

 2型糖尿病の病態の一つに膵β細胞容積の低下、脱落があります。これはヒトにおいて我々の教室が世界で初めて報告しております(Sakuraba H, Diabetologia 2002)。この脱落機序には現在、高血糖からの酸化ストレスの亢進、小胞体ストレスの増加、オートファジー不全、膵島における炎症反応などが想定されております(Mizukami H, Diabetes Care 2014, Kamata K, Amyloid 2014)。これら機序を制御して、β細胞容積の改善を達成し、糖尿病の根治を目指しております。



2. 糖尿病性神経障害の病態の解析、新規治療法の確立について

 糖尿病性神経障害は糖尿病合併症の中で最も早期に発症し、頻度が高い合併症です。電気生理学的には糖尿病診断時100%の患者様で末梢神経に異常がみられることがわかっております。その症状は、痛み、しびれ、感覚異常、知覚鈍麻などがあります。特に有痛性神経障害は睡眠を阻害してQOLの低下をもたらし、自律神経障害は致死率が著明に高くなることがわかっています。その機序は多因子であり、現在ポリオール経路の過剰活性化、最終糖化産物の沈着、PKCの活性化異常、酸化ストレス、神経栄養因子の発現低下などが知られております。

現在、ポリオール経路の律速酵素であるアルドース還元酵素阻害薬のみが臨床応用されております。しかしながら、ARIは血糖コントロールが悪い症例や進行期の症例にはその効果が低いことが知られております。そのために、糖尿病性神経障害に対する新規機序の解明及びその応用による新規治療法の確立は急務となっております。現在、当講座では包括的メタボローム解析を用いた糖尿病性神経障害における新規治療標的の同定、糖尿病性神経障害における炎症反応の関与などの研究を行って、新規治療法の確立を目指しております。
 また、ヒト表皮内小径神経密度を測定することにより、糖尿病性神経障害の病期分類の確立、新たな発症機序を模索しております。


3. 糖尿病と癌

 現在、糖尿病の死因では癌によるものが第1位となっております。糖尿病にかかると肝臓癌、膵癌、大腸癌、乳癌などの癌の発症率が有意に上昇することが知られております。糖尿病の増加は癌患者の増加につながっているのです。これ以上癌患者を増やさないためにも、癌と糖尿病の臨床的な関連を解析し、糖尿病による癌発症、進展の機序を解明する必要があります。このプロジェクトでは、糖尿病を伴って発症、進展した癌に対して、新たな発症機序、治療方法を確立することを目標としております。

 感染症病理

板橋、阿部、工藤

病理像とパラフィン包埋組織を用いた遺伝子解析により正しい感染症診断を目指す。

 腫瘍病理学

板橋、工藤、阿部、高橋、斎藤、内田、梅津

腫瘍の分化度と転移との関連、浸潤機構の検討などをみる目的から、癌遺伝子、癌抑制遺伝子発現と細胞接着因子、間質浸潤因子発現の機構を、ヒト腫瘍および腫瘍細胞株を用いて検討する。

 骨髄・網内系疾患病理

板橋、工藤、阿部

消化管悪性リンパ腫の診断、分子病理、病態形成機構についてヒト組織を用いて研究する。白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫における分子異常を探索し、その病因、診断、治療指針を研究する。